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ジャーナリスト、週刊誌記者、フリーライター

「20分で自宅が浸水」集中豪雨による都市部の水害をどう防ぐ 都や区が行う氾濫対策は #災害に備える

2026年8月27日 Yahoo!ニュース特集

https://news.yahoo.co.jp/articles/487222c35acd03df846af5e69d23f197d9403a04

近年増加するゲリラ豪雨や線状降水帯による短時間での記録的な集中豪雨。今月半ば、千葉県で起きた豪雨では13人の死者を出し、4000棟を超える甚大な浸水被害が発生した。東京では、令和元(2019)年東日本台風や昨年の9月11日豪雨などで浸水被害が出ている。こうした豪雨に対し、東京都や各自治体ではどういった対策をしているのか。実態を取材した。(文・写真:ジャーナリスト・小川匡則/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)

「まさかうちが浸水するとは」

2025年9月11日、午後2時を過ぎた頃だった。東京・世田谷区の会社に勤務する伊藤優一さん(仮名、57歳)は猛烈な雨が降ってきたことに気がついた。 「窓を見てすごい雨が降っているなと思っていたところ、娘から何度も電話が入っていた。しかし、仕事中だったので出られませんでした。夕方になって折り返したところ『うちが浸水している!』と。まさかそんなことになっているとは思わず、驚きました」 伊藤さんの自宅は目黒区内の住宅街にある戸建てだ。大きな道路から路地に入って十数メートル奥に位置している。当時3階にいた娘はブレーカーが落ちたため復旧しようと半地下の1階に降りたところで浸水に気づいたという。豪雨となってほんの20分ほどの出来事だった。 「あっという間で、なすすべもなかったようです。半地下の部屋はすっかり浸水してしまいました。やんだ後、消防の人が来て、汲み上げ式の電気ポンプを設置してくれました。自分で水を汲み上げましたが、本当に大変でした」

この日起きたのは積乱雲が発達したことによるゲリラ豪雨だった。わずか1時間に目黒区で134ミリ、大田区や品川区で120ミリ、世田谷区で100ミリ、という記録的な大雨を降らせた。 雨がやんだ後、近所の人が録画していた動画を見せてもらって、伊藤さんは驚いた。冠水していた道路は、ものの数分でみるみる水がなくなっていったのだ。 「つまり、排水能力は備わっていたはずなのに、それを超える豪雨が瞬間的に襲ったということ。そのために一時的に冠水状態となり、浸水被害が発生した。1時間でこうなるなんて想像もしていませんでした」

増加する豪雨と東京都の対策

近年、日本全体で集中豪雨の発生が増加している。 気象庁によると、1時間降水量50ミリ以上の大雨は1976年からの10年間は年間平均で約226回の発生だったのが、2016年からの10年間では約340回と1.5倍に増加している。1時間100ミリ以上の豪雨に至っては約2.2回から約4.4回と倍増している。今年も8月13日に千葉県千葉市で1時間115ミリという豪雨が発生し、甚大な被害が出た。 原因の一つとして考えられているのが温暖化だ。2021年の国土交通省の技術検討会は気候変動に伴う変化として、気温が平均2度上昇した場合には降水量が1.1倍(北海道のみ1.15倍)、洪水発生頻度は約2倍になると予測した。この予測値をもとに、各自治体では従来の想定の1.1倍の降水量に対応するための対策を始めている。

こうした集中豪雨が起きた際、特に被害が甚大になりかねないのが都市部である。そこで東京都では主に三つの対策をとっている。外水氾濫を防ぐ「河川整備」と内水氾濫を防ぐ「下水道整備」、河川や下水道への雨水の流出を抑える「流域対策」だ。 「河川整備」の基本は、1時間に50ミリの雨が降っても川からあふれることがないように河道の拡張などの整備をすることだ。 「1時間あたりどのくらいの雨量だと、この川ではどのくらいの流量になるのか。その時、その川の護岸では、高さや幅から見て、どこであふれる可能性があるのかを検討し、護岸の高さなどを決めています。また、川からあふれた場合、その一帯でどのくらいの高さまで浸水するのか……。都ではそういった豪雨による水害を丁寧に計算し、シミュレーションして洪水浸水想定区域図を作成しています」 東京都都市整備局の小嶋芳弘施設計画担当課長はそう語る。 「その上で、過去の豪雨による浸水頻度や、浸水した際の被害の深刻度などを総合的に判断し、神田川流域や石神井川流域など10の対策強化流域を決めています」

都では都市型水害に対応すべく、2023年に豪雨対策基本方針を9年半ぶりに改定した。この改定での大きな変化は、対応できる降水量の目標を1時間あたり区部で85ミリ、多摩部で75ミリと、従来よりそれぞれ10ミリ増加させていることだ。 そんな方針のもと、「河川整備」の取り組みの一つが「調節池」という施設の整備だ。 川の護岸の強化だけでは、急激に増える水量を抱えることはできない。そこでつくられているのが「調節池」で、川に隣接する場所に設置し、一時的に雨水を流し込んでためる役目を担う。 「1時間50ミリを超える雨量について、河川整備では調節池で対応しています。調節池は主に道路の下や公園などの公共空間を活用するなどして整備しています」(小嶋氏) 例えば、石神井川の上流にあたる西東京市には南町調節池(貯留量1.2万立方メートル)、向台調節池(同8.1万立方メートル)がある。都によれば、昨年9月11日の豪雨の際には、この二つの調節池に水が流れたことで下流の水位上昇を「0.8メートル抑えることができた」という。調節池がなければ、青梅街道付近で河川が氾濫していたと想定されている。

こうした都の水害対策は確実に成果が表れている。 過去にあった同規模の台風で比較すると、1966年には12の河川が溢水して約4万2000棟が浸水したが、1991年には溢水した河川は4つで約2200棟が浸水。2017年には河川の溢水はなく、浸水した家屋は35棟という結果が出ている。

渋谷駅にプール10杯分の貯留施設

一方、「内水氾濫」も警戒が必要だ。 今月の千葉豪雨のように下水道の排水能力を超える雨量だと雨水が流れなくなってしまい、道路が冠水、内水氾濫が引き起こされる。 「過去の浸水実績だけでなく、シミュレーションの結果などを総合的に勘案し、内水氾濫のリスクが高い重点地区を定めています。そこでは下水道管を太いものに取り換えたり、一時的に雨水をプールできる巨大な貯留施設を整備したりして対策を進めています」(小嶋氏) たとえば、渋谷駅東口広場地下には約4000立方メートルの雨水を貯留することができる施設がある。4000立方メートルとは、25メートルプール(約400立方メートル)10杯分もの量だ。 「下水の量が一定以上になったらここに入るようになっています。渋谷は盆地になっていて雨水がたまりやすいので、こうした貯留施設があるのは効果的です」

ただ、こうした整備を進めても目標降水量に対して10ミリ相当分が不足するという。その分は河川や下水道に雨水が流れ込まないように、雨水を一旦ためる貯留施設と地面にしみ込ませる浸透施設による「流域対策」を公園や広場などで実施して吸収することを目指している。 「例えば宅地にピンポイントで水をためてしみ込ませるための浸透ますやトレンチ(溝)を設置してもらう。学校などの施設では校庭に貯留施設を造ってもらう。都はそれを補助していく、ということに注力しています」

暗渠からの内水氾濫に課題

都がこうした大規模な取り組みをする一方、区でも対策を行っている。 「2019年の台風19号(令和元年東日本台風)がターニングポイントでした」 こう語るのは世田谷区議の稗島進氏だ。同区で災害対策などの特別委員会の委員長を務めている。稗島氏はこれまで区は震災対策に注力していて、水害は後回しだったと言う。 「世田谷区として、水害は多摩川の氾濫が一番大きい課題でした。まず問題だったのが、二子玉川駅付近の兵庫島公園のところに約540メートルの無堤防区間があったことです。台風19号ではそこから溢水し、浸水による大きな被害が出たのです」 それまで、堤防の設置に対しては地元の反対運動があった。 「『自然環境を守りたい』というのが主な理由だったようですが、2019年に災害が起こってからは整備を求める声が大きくなりました。その後、国によって進められ、9月11日の豪雨では多摩川の氾濫防止に貢献しました」

しかし、多摩川の氾濫を防ぐことができても問題は残る。それは、「樋門(ひもん)」と呼ばれる水門で、水路(暗渠)と河川との間に設置するゲートである。大雨や洪水時にはゲートを閉めて、河川からの水が逆流するのを防ぐ役割を担う。 だが、世田谷区が管理する樋門は現場で操作して開閉するものだった。そのため、令和元年東日本台風の時は現場に近づけず、閉めることができないものもあったという。 「これによって、多摩川の水が支流に逆流し、浸水被害が拡大しました。この操作は自動化している自治体もあるが、世田谷区では費用などの問題でそれができず、結局約40メートル離れたところから遠隔操作盤を使ってゲートを閉めるシステムに変わった。それでも、豪雨の際にそこまで職員が向かって迅速に対応できるのか、懸念はあります」 もっとも樋門を閉められれば水害がなくなるわけではない。今度は支流から本流(多摩川)へ流れる先がなくなり、そこでの氾濫が避けられなくなる。実際に、昨年の9月11日豪雨では多摩川の支流である谷沢川が氾濫し、一帯の住宅で浸水被害が発生した。

また、世田谷区など都区部で悩ましいのが、暗渠などからの内水氾濫だ。 都区部には、もともと川だったところを暗渠にし、地上から川の存在が見えないところが多数存在する。大雨になると、そこが内水氾濫を起こす一因となっている。 「世田谷区には小さい川がたくさんあり、それらを暗渠にする形で地上部分を緑道にしているところが多い。そのため、一定の雨量を超すと緑道周辺で浸水する可能性が高まる。区が出しているハザードマップを見ればわかります」(稗島氏)

個人が「土のう」や「止水板」で対策も

こうした内水氾濫のリスクが高い地域で、区として住民向けに行っている対策もある。 そんな対策の一つが「土のうステーション」だ。 「過去の豪雨災害ではマンションの地下駐車場も水浸しになり、それでダメになる車もありました。土のうを置くことでストッパーになって、地下に水が入りにくくなります」(稗島氏)

また、自治体と都が連携して地域の住民などに対して、住宅や事業所などへの止水板の設置を推奨している。 「去年の12月から補助制度を始めました。こちらも止水板の設置に関する助成制度を有する自治体に対し、都がその費用の一部を補助していくという形です」(前出・東京都小嶋課長) 個人で設置する場合、例えば目黒区では9割、世田谷区では8割が助成される(上限あり)。 冒頭の伊藤さんも補助金をもらってつい最近、止水板を設置したという。 「ただ、止水板を設置していると、この猛暑の熱で止水板を留めているゴムがだめになってしまうという話も聞き、どこまでつけっぱなしにすべきか悩みます。集中豪雨は突然くるので悩ましいです」

どんなに対策をしても、被害をゼロにすることは難しいのが集中豪雨だ。それでも、国、都、自治体、個人と、それぞれのレベルで対策をすることが被害の減少につながっている。

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