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マネー現代 2021年2月2日
コロナ補正予算に「5000億円大学ファンド」って…?
今年度の第三次補正予算が1月28日に成立した。総額は19兆円超にも及ぶが、緊急事態宣言を発令するおよそ1ヶ月前に取りまとめたものであり、新型コロナ対策費には4兆3500億円を計上したにすぎない。
第三次補正予算の半分以上は「ポストコロナに向けた経済構造の転換・好循環の実現」と題した分野で、内訳として「デジタル対策」や「カーボンニュートラル」、「Go Toトラベル」などの項目が並ぶ。
そんな中の一つに、「大学ファンド創設に5000億円」という予算がついている。
この「大学ファンド」とは一体なんなのだろうか。萩生田光一文部科学大臣の説明によると、「我が国の大学の財務基盤の抜本強化、若手人材の育成支援を進めるために、10兆円規模の大学ファンドを創設する」(1月15日の記者会見)ということだそうだ。
萩生田文科大臣 1月26日 筆者撮影
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1月26日の文部科学委員会でも、萩生田大臣はハーバード大学やスタンフォード大学などを挙げ、「欧米の主要大学は寄付金などを原資とした数兆円規模の大学ファンドを有し、その運用益を人材や研究設備に投資することで充実した研究基盤を構築している。このような取り組みがわが国と欧米との研究環境の差の一因となっている」と述べている。
これに対して、衆議院文部科学委員会に所属する立憲民主党の牧義夫議員は疑問を呈する。
「そもそもハーバード大学やスタンフォード大学は私立大学です。政府が大学ファンドを作るというのとは全然違った話です。寄付を集める風土も全然違います。それに日本でもいくつもの大学がデリバティブなどの運用で失敗して多額の損失を出したことがあります。官製ファンドだからうまくいくという保証はどこにもない」
5000億円の原資は「財務省に眠る金の延べ棒」
この「大学ファンド」はまず政府が5千億円を出資し、財政投融資からも4兆円を確保して運用を開始し、将来的に10兆円規模のファンドにしたいという構想だ。
形式としては科学技術振興機構(JST)にファンドを設置し、JSTが運用を委託して運用益を得る仕組みとなっている。
そのため、今回まず補正予算で5千億円の歳出が決まったわけだが、この5千億円の原資がややこしい。
1月26日の文教科学委員会で牧議員の質問に対して財務省の回答は以下のようなものだった。
「財務省の造幣局は天皇陛下の御即位やオリンピック開催などでの記念金貨を発行するための原材料として金を保有している。今回、国の資産を有効活用する観点から必要な量を除いて売却することにした。しかし、市中売却をすると市場への影響が大きい。そのため外為特会(外国為替資金特別会計)において外貨準備の運用として金を取得することにした。
一方で、日本銀行はコロナ禍で緊急時の外貨資金供給のために外貨を必要としていた。そのため、外為特会が持っている外貨を日銀に売却した。財務省と外為特会と日本銀行と三者の必要性が合致したのでこういう形になった」
一度聞いただけだとよくわからないが、要するに、
・「財務省は保有していた金を売って現金を得たい。ただし市中への売却はできない」
・「日本銀行はコロナ禍で急に米ドルが必要となった」
という両者の思惑が『たまたま』一致したため、それを実現するために、
「財務省は保有している金を外為特会に渡す」→「外為特会は保有している米ドルから5千億円相当分を日銀に渡す」→「日銀は5千億円を外為特会に渡す」→「外為特会は5千億円を財務省に渡す」
という三角トレードのような形をとったということだ。
牧議員は首を傾げる。
「まさに錬金術と言っていいくらいの非常に手の込んだ芸当です。しかし、日本の科学を推進するための立派な資金なのに、なぜこんな方法を取らないといけないのでしょうか。まるで『学費を出したくてもお金がなかったので、家中を探っていたらたまたま押入れの中から金の延べ棒を発見した』みたいな話です。こうまでして捻出しないとこれからの国家百年の計を立てることができないのかと心配になります」
具体的なことが全然決まっていない。元本割れも…
では、実際にファンドはうまくいく見込みはあるのか。
「文科省はGPIFに倣って3%程度の利回りを確保することを考えていると言っています。しかし、GPIFは株の売買も含めての運用益で3%程度になっているだけで、配当によるインカムゲインに限ると1.6%程度でしかない。しかもGPIFは途中でキャッシュアウト(現金化)しないが、大学ファンドはキャッシュアウトして大学に分配するため複利が期待できない。
その上、利益を上げた時はキャッシュアウトする反面、損失を出した時には一体どうするのか。その時は一切配分ができないことにもなる。当然元本割れをするリスクもあり、そのリスクは決して小さくない」(前出・牧議員)
実際、萩生田大臣もこのファンドについて、「財務省もかなりリスクがあると思ったんだろう」と説明しており、その5千億円については「リスクヘッジ」とも表現している。
不鮮明なのは原資だけではない。今後の運用に至るまでのプロセスもまだ決まっていないことが多いのだ。
「決まっているのは、4兆5千億円でファンドを始めるということと、運用元はJSTであるというだけです。JSTが誰を運用担当者に選ぶのか、運用益はどういう基準で配分するのか、責任体系はどうなっているのかなど、何も決まっていない。順番が逆だと思います」(前出・牧議員)
「緊縮財政」が将来世代にツケを回している
そもそもなぜこのような「大学ファンド」が必要なのか。
同じく衆議院文部科学委員会に所属する自民党の安藤裕議員は「緊縮財政の発想から抜け出せていないことが根本にある」と指摘する。
「予算に制約がある中でなんとか高等教育の予算を確保したいという発想で作られた。だから5千億円の原資も本予算ではなく補正予算に入れ込んだのでしょう。財務省が金の延べ棒を5千億円に換えて支出したのも、あくまで特別会計でやりたいということだと思います。
しかし、そもそも財源がないと思っていることが間違いです。国債を発行して財源を確保すればいいだけです。10兆円ファンドがたとえ3%の利回りを実現できたとしても3千億円にすぎません。それよりも本予算に3千億円を増額して組み込むべきです。緊縮的な考えで政策を作るから大学ファンドのような奇策が出るわけです」
文科省から各大学に分配される運営費交付金は平成16年の1兆2415億円から平成30年には1兆971億円と1割強も減らされている。
また、主要国における研究開発費では、政府負担割合はOECD平均で25.13%だが、日本は14.56%と極めて低い。
大学においてもアメリカや中国、ドイツなどが大きく大学等での研究費を大幅に増やしている中、日本はほぼ横ばいで推移を続けている。
図:主要国の大学等の研究費の推移/出典:経済産業省「我が国の産業技術に関する研究開発活動の動向」より
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それにもかかわらず、予算を増やすのではなく、欧米のトップ私立大学に倣ってファンドを設置するというのは違和感を禁じ得ない。
「まずは本予算で教育や研究開発に関する予算を大幅に増額することから始めるべきです。そのためにも財政的な制約があって予算を大幅に増やすことはできないという前提認識をまず改めるべきです。国債を発行すると『将来にツケを回している』と揶揄する人がいますが、これからの日本を担う若い世代に十分な予算を確保することは『将来世代に投資する』ことであってツケを回すことではありません。それどころか、十分な予算を出してこなかったことで『将来世代』は既に多額の奨学金返済などのツケを背負わされていることに気づくべきです」(前出・安藤議員)
萩生田大臣を直撃すると…
そもそもこの大学ファンドは文科省が発案したものではない。「総合科学技術・イノベーション会議」の基本計画専門調査会で提起されたものである。
萩生田大臣を直撃すると、「文科省のような弱小省庁が予算の増額を勝ち取るというのは困難。10兆円のファンドで堅実に運用し、たとえ1%の利回りでも1千億円の運用益が出る。どういう形であれ予算を獲得できるのは大きい」と文科省の抱える苦しい懐事情を語った。
「大学ファンド」に多くの疑問があっても、文科省を責めるのは酷な話だろう。だが、先進国を標榜する日本がこのような形でしか「将来の日本を背負って立つ研究者」の育成のための資金を生み出せないというのではあまりに寂しい。
「将来世代に投資する」ためにも、未知数のファンドではなく、国債を原資として予算の増額を認めることが「科学技術立国」を実現するためには不可欠なのではないだろうか。

































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