https://gendai.ismedia.jp/articles/-/80877
マネー現代 2021年3月9日
石破茂も呆れた「予算国会」
過去最大となる約106兆円を計上した令和3年度予算案が3月2日、衆議院を通過した。これで菅義偉政権にとって最初の関門だった「予算案の年度内成立」が決まった。憲法で規定された衆議院の優越による「30日ルール」のため、参議院で可決されなくても年度内で自然成立するからだ。
当然ながら政府与党は当初より、自然成立の期限である3月2日までの衆議院可決を目指していた。まさに「筋書き通り」に難なく進んだ形だ。
衆参両院で与党が圧倒的多数を有する状況下で野党が政権を追い詰めるのは容易ではない。ただ、それを差し引いても「国会論戦の花形」と称される予算委員会にもかかわらず、今年は例年以上に緊張感が乏しい論戦に終始した。
実際、過去何年も予算委員会で委員を経験している閣僚経験者たちに意見を聞いても、同様の感想が多く返ってきた。菅政権発足直後には菅首相の不安定な答弁ぶりから与党内からも「あの答弁では通常国会の予算委員会は乗り切れないのでは」と不安視されていたことを考えるとあまりにも淡白だった印象は拭えない。
ここ数年、予算委員として質疑を見てきた自民党の石破茂元幹事長も「今年の予算委員会は緊張感が全くないね」と半ば呆れた様子で語る。
「自民党が野党の時(2010〜2012年)は各分野の部会長がそれぞれの大臣と直接真剣勝負をした。そして、質疑後にはみんなで反省会をして、『この質問は意味がなかった』とか厳しく意見しあったものだ。一方、今の野党は場当たり的に質問しているだけだね」(石破氏)
追及よりも選挙を優先…
この間、政府を追及するネタは少なくなかった。小池都知事に押される形で緊急事態宣言を発令するなど、新型コロナ対策はお世辞にも満足なものではなかった。その上、夜間の銀座クラブ通いなどの失態で自民党議員が4人離党、公明党議員1人が議員辞職。
さらに、「週刊文春」による菅首相の長男と総務省幹部との会食問題、吉川貴盛元農水大臣の汚職に絡んだ農水省幹部とアキタフーズの会食問題と問題は相次いだ。
しかし、昨年末にかけて低下が続いていた内閣支持率は下げ止まる一方、立憲民主党の支持率が上がることはなかった。「追及が下手」(石破氏)だったのは言うまでもないが、そもそも本気で政権を追い詰めようとしていたのかも疑わしいと言わざるを得ない。
通常国会が始まってからの予算委員会は「令和2年度第三次補正予算案」と「令和3年度予算案」の二つを審議した。
その間に一番多く質疑に立ったのは今井雅人議員と後藤祐一議員の各4回で、総質疑時間は今井氏が174分、後藤氏は157分だ。
これを「モリカケ問題」の追及で盛り上がった2017年同時期の予算委員会と比較してみる。当時の野党第一党である民進党で一番多く立ったのは後藤祐一議員と玉木雄一郎議員で各7回。時間も後藤氏が291分で玉木氏は276分と倍近く多い。
「質疑時間」が示す現実
質疑時間の内訳を比較すると、2017年民進党が上位5人で約40%の質疑時間を占めているのに対して、今年の立憲民主党はわずか約24%に過ぎない。
表:予算委員会(通常国会開会〜予算成立まで)の質疑時間比較(衆議院インターネット中継のサイトより筆者が集計)
拡大画像表示
一方で目立ったのが質疑者の多さだ。17年民進党時代には34名だった質疑者が今年の立憲民主党は53人も数える。
ある立憲民主党議員は、
「今年は選挙が確実にあるので、選挙対策で数多くのバッターを立たせているんです」
と説明する。
そのためどうしても一回あたりの質疑時間は短くなる。立憲民主党は一度に60分以上の質疑をした人は一人もいなかった。一方、2010年野党時代の自民党は18人もの議員が1度に60分以上の質疑をしていた。
石破氏が振り返る。
「質疑はしっかりと論を立ててやらないといけないし、そうなると1時間は必要になる。質疑の準備も入念に行った。特に総理に対する時は準備に3日はかけたね」
立憲民主党ではわずか20〜30分程度の質疑を1回だけする議員が20人以上いたが、これでは深い質疑を期待するべくもない。政権が嫌がるような深い追及をすることを最初から放棄しているようなものではないか。
定まらない政策と党内ガバナンスの欠如
大きな問題となった総務省幹部の接待問題でも山田報道官をやっと参考人招致したかと思えば、次の日には辞職したことで追及はあっさり終焉した。予算案可決後、武田総務大臣を直撃すると「まあ、調査も含めて全部ちゃんと(委員会に)出したからね」と余裕の表情だった。
予算委員会で「ゼロコロナ戦略」を提案する枝野代表 筆者撮影
拡大画像表示
ある自民党閣僚経験者は野党の攻め方に疑問を呈する。
「答弁の不安定な閣僚を狙い撃ちして一人ずつ潰していくべきだった。今回、総務省の問題で武田大臣を攻め立てていたが、武田大臣の答弁能力は非常に高い。あれではいくらやっても倒れない。答弁が不安定だったのは野上農水大臣と岸防衛大臣。我々が逆の立場だったらその二人を集中的に攻めていた。野党はそういう追及のやり方をどうして学ぼうとしないんだろうね」
こうして政府を追い詰めることもなく、あっけなく衆議院で可決された。そのため、3日からの参議院での予算審議は事実上の「消化試合」になってしまった。
しかし、立憲民主党の問題は追及が弱いだけではない。
2日の予算委員会での質疑終局後、立憲民主党は共産党とともに「予算案の組み替え動議」を提案した(国民民主党も別途、組み替え動議を提案)。
その内容はコロナ対策で36兆円を追加すると同時に予算案の一部を削減し、差し引き31兆5千億円を特例公債で出すというものだ。
しかし、一方で立憲民主党は予算案と同日に採決された「特例公債法案」には反対している。
「消費減税」より「コロナ増税」…?
この「特例公債法案」が審議入りした2月19日の本会議で登壇した階猛議員は「財政健全化」を訴え、コロナ対策予算について、「その財源は当面はつなぎ国債とし、3年以内に与野党で合意した上で、格差是正に資する方法で国民に負担をお願いすることも併せて考えるべきだ」と発言している。
要するに国債で一旦賄うが、来年以降に「コロナ増税」を検討すべきだと主張しているのだ。
一次、二次の補正予算で総額46兆円の特例公債を出しており、さらに31.5兆円を加えると77兆円以上にも及ぶが、それをどうやって「税負担」で賄おうと言うのか。コロナ禍で困窮する国民を前に、あまりに無責任な姿勢ではないか。
そもそも枝野代表はコロナ対策の一環として「消費減税」にも言及していたはずで、同じ政党にありながらあまりにも方向性が違う主張が公然と行われるのは違和感しかない。
なぜこのような状況になっているのか。党内で積極財政を主張している福田昭夫議員は「財政に関する基本的な考えがまだ定まっていない。それに党内でのガバナンスが取れていないため各議員が好きなことを主張している状況だ」と語る。
ガバナンスが効いていない実態を象徴したのが、予算委員会での野田佳彦元首相の質疑だった。野田氏は「党首討論のつもりで質問したい」と切り出し、菅首相に「財政健全化」を迫った。
野田氏はもはや党首でもなんでもないのに、こうした質疑を枝野代表は容認しているのだろうか。
突如打ち出した「ゼロコロナ」
極めつけは枝野代表が1月の代表質問で突如として主張を始めた「ゼロコロナ戦略」だ。コロナウイルスをゼロに封じ込むことが果たして現実的なことなのだろうか。
枝野代表はニュージランドや台湾などの例を挙げるが、人口規模が全然違う上、日本はロックダウンもできない。さらなる私権制限に踏み込むというのだろうか。しっかりとした制度設計を作っているとは思えない。
立憲民主党の中堅議員は「枝野代表が突然言い出したので、『ゼロコロナ戦略』を打ち出すことになった。党内で議論を積み上げたわけではない。ボトムアップの政治を党是としているはずなんですが……」と苦言を呈する。
2月に成立した新型インフルエンザ等対策特別措置法の改正案では私権制限の範囲が曖昧かつ国会承認を必要としないなど懸念する声もあったが、立憲民主党は賛成に回った。ここまでくると本当に「立憲主義」なのかも疑念を抱かざるを得ない。
枝野代表は「選挙が近づかないと野党の支持率は上がらない」と強がるが、果たしてそうなのか。こうした「政権を取る決意のなさ」、「基本政策のブレ」、「党内ガバナンスのなさ」などが有権者を「とても政権は託せない」という思いにさせているのではないだろうか。
前出の石破氏は、
「予算委員会は有権者に対して自分たちの方が政権に相応しいということを示すための場なのに、あれでは支持率は上がらないよ」
と語る。
日本の政治にとって不幸なこと
自民党も決して状況が良いわけではない。
自民党は先月、党所属の全国会議員に1000枚の往復ハガキを郵送し、地元有権者から意見を聴取している。
江藤拓前農水大臣に話を聞くと、「非常に厳しい声がたくさん届いている」と気を引き締める。
だが、小選挙区制度において政治に緊張感をもたらすには「政権交代可能な野党」の存在が欠かせない。
「(立憲民主党からは)政権を奪い取るという決意が見えない。これは日本の政治にとって不幸なことだ」
と石破氏は嘆く。
今年は確実に衆議院選挙があるが、このままでは政治への無関心が広がるだけだろう。
残念ながら、与野党ともに政権交代を求めない「新55年体制」はすでに完成しているのかもしれない。

































コメントを残す